こんにちは、岡田です。
2017年1月、日本のAI史に残る重要な事件!…と言っても過言ではないような出来事がありました。
そう、「PaintsChainer」の登場です!
白黒の線画をアップロードすると、AIが勝手に着色してくれるというWebサービス。
公開とともに、国内外から大きな反響を得た。ピーク時はなんと1日38万PVだとか。
さて、このPaintsChainer旋風。
ズバリすごい所は、エンジニアやビジネスレイヤーではない一般の人たちに、「AI技術ってすごいんだ!もう未来の話じゃないんだ!」という認識を、広めたところ。
さっそく岡田も、自分が描いた絵で試してみました。
画像をアップロードして、ボタンをポチ!
それだけの操作でこの精度! (岡田は何もしていません)
よく見ると、ケモミミとかほっぺとか影とか…そんなかなりかゆいところにも手が届いてる…?
こんなすごいものを、Ledgeが放っておくわけはありません! というわけで、PaintsChainerの作者、PreferredNetworks 米辻泰山さんに直接お話を伺ってきました。
誕生のキッカケは、Chainer勉強中の「コレ、いけるんじゃないか?」
―米辻さんは、AIまわりの研究とかをされているんですか?

最近よく言われるんですが、違いますよ(笑)
普段はロボットエンジニアをしています。プログラミングをしたり、研究開発用のプロトタイピングを作ったりしていますね。
ハンダ付けなんかもしますよ。
ロボットエンジニア!?なんだか意外…。専門でやっているAI研究者かと思っていました。
さらにお話を伺うと、大学時代はロボットコンテストにも参加、前々職もロボットメーカーという、生粋のロボットエンジニアのようです。
そんな米辻さんが、どうしてPaintsChainerの開発に至ったんでしょう?

私自身が、趣味で少しイラストも描いていたりした、というのもあるんですが、
社内でChainerを勉強した事が大きいですね。
PreferredNetworksが開発した、ディープラーニングを行うためのライブラリ。
あのGoogleが開発したTensorFlowと、肩を並べるほどの人気がある。
公式サイト: http://chainer.org/

Chainerの勉強を始めたのが、2016年の11月ごろ。
ちょうど社内に、DCGANと呼ばれる方法でAIによる画像生成をおこなっている方がいまして、その方に教えていただいるうちに、「おやっ、線画の着色もいけるんじゃないか?」と思ったんですよ。
Deep Convolutional Generative Adversarial Networksの略。
2つのネットワークを競合させて学習をおこなうアルゴリズムであるGANを改良し、Convolution(畳み込み)やDeconvolution(逆畳み込み)といった手法を使うことによって、さらに高度な画像生成が行えるようになったもの。
「いけるんじゃないか?」で作っちゃったんですか…? 実際にそれで作れてしまうところもすごいですが…。
ただ、米辻さん曰く、白黒画像をAIを使って色をつけたりする技術って、じつは既に多数存在していて、最新の研究を追ってる方達からすれば、「着色? うん。まぁ、できるよね」っていうレベルのものなんだそうです。
そんなものなんですか…。なんだろう、住んでる世界が違いすぎる…。
まるで生き物!“魔法の世界”の裏側
―さっきからびっくりしっぱなしです…。ちなみにPaintsChainerはどんな仕組みになっているんですか?

モデルを学習させていくにあたり、3つのニューラルネットワークを使用しました。
それぞれ、おおまかに色を塗る、正解との差分を見分ける、詳細に色を塗る、という役割があります。
これに、教師データとして「もとの線画」と「色着きの完成絵」のペアを約60万件学習させました。

ただ、途中で問題もあって。PaintsChainerって、肌色には強いんですよ。イラストではよくある部分ですからね。
でも「髪の色が何色か?」って、わからないんです。だから、最初はセピア色ばっかになっちゃったんですよ。
たしかに。そのキャラが、青い髪か?赤い髪か?って、白黒の画像だったら、人間でもわからない問題ですよね。
どうやって乗り越えたんでしょう?

(引用元:http://qiita.com/taizan/items/cf77fd37ec3a0bef5d9d)

問題設定を変えたんです。セピア色にならなければ良いんだ、と。
「こら!セピア色ばっかぬってるぞ!」っていうのを検出するためのニューラルネットワークを、新たに用意したんです。
こうした役割のネットワークを、Adversarial Network(敵対的ネットワーク)と呼びます。
セピア色ばかりだとそのネットワークが怒るので、色を塗るネットワークは、だんだんそいつの目をごまかそうとするんですよ。
ただ見分けるためのネットワークをうまく機能させるのはすごく難しいらしく、それを回避するために細かいパラメーターを調整する作業が大変だったそう。
その作業を、「調教してあげる」と表現していた米辻さん。実際に触れてみないとわからない、“職人芸”のような領域が存在するとのこと。
まるで、本当に生き物を扱うかのような世界観でした。
大盛況を振り返って想う「AIと人間の付き合い方」
―PaintsChainerには、いろんな反響があると思うんですが、どう感じていますか?

とにかく「楽しい!」って言ってくれる方がいて、嬉しいですね。
プロのイラストレーターの方も使っていたりして、「あぁ、作ってよかったなぁ」と。
特に印象的だったのは、「これによってイラスト制作のフローが変わるぞ!」「イノベーションが起きた!」という声。
これには、私自身ちょっと驚きました。技術的には、まだまだ詰められる所はあるので(笑)
米辻さん、謙虚ですね…。
でも、「色を塗るって、人間にしかできないクリエイティブなこと」と、誰しも思っていたはず。
イノベーションや革命は言い過ぎかもしれませんが、少なくともいろんな方面に刺激を与えたことは、事実だと思います。
―「AI・ディープラーニング技術は、今後こうなるだろう」という想いってありますか?

AI技術ですか。そうですねぇ。便利な道具の1つという立ち位置ですかねえ。
PaintsChainerもそうなんですよ。あくまで便利な道具なんです。
PaintsChainerって、色塗りのためのヒントを与えるのに癖があるんですね。
でも使い方が上手い方は、その癖を掴んで、どんどん独自のテクニックを編み出している。笑
プロの方が下塗りとして使うといった事例もあって、本当に便利に使っていただいています。
米辻さんはさらに、AIはこれから研究段階から実用段階に進み、どんどん私たちの生活にも溶け込むようになる。と、語ってくださいました。
たしかに、「Siri」や「Alexa」などのAI音声アシスタントもそうですが、人間にとって、とても“便利”な存在になってきていますよね。
AIは人と対峙するものではない

「AIが人間の仕事を奪う」という話題もありますよね。
でも、まだまだ「知能」と呼ぶには程遠いんです。
だから、私たちがうまく使ってあげれば良いんじゃないかな、と思いますね。
とインタビューで最後に語ってくれた米辻さん。
世間のAIに対する期待・不安・葛藤…様々ありますが、実際にAIに携わっている米辻さんは、冷静な視点で語ってくださいました。
AIは私たちと対峙するものではなく、共存していける物なんですね。実務側からのご意見、とても参考になりました。
今回の取材では、“AI界隈のリアルなお話”を聞くことができました!Ledgeでは今後も、AIのリアルを追いかけていこうと思います!
米辻さん、お忙しいところ誠にありがとうございました。